- 2025/03/24
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鋼材の熱処理とは?種類や特徴、目的まで解説

鋼材の熱処理は、製造業において材料の性能を最大化するための重要なプロセスです。
この記事では、熱処理の基礎知識から代表的な方法について詳しく解説します。
熱処理の目的や効果、鋼材の性質に与える影響を理解することで、品質向上や加工効率の向上につながります。
特に、焼入れ、焼戻し、焼なまし、焼ならしなどの方法の違いや、それぞれの目的と特徴を知ることは、鋼材加工に携わる方にとって必須です。
目次 [hide]
熱処理とは?

熱処理とは、金属材料に対して加熱や冷却を行い、その性質を変化させる技術です。
ここでは、熱処理の概要、目的、適した材料について解説していきます。
熱処理の概要
熱処理は、金属の強度や硬さ、耐摩耗性を向上させるために行われます。
以下のような方法があります。
- 焼入れ
- 焼戻し
- 焼なまし
- 焼ならし
熱処理は、金属部品の寿命を延ばし、性能を最適化するための重要な工程です。
焼入れでは、金属を高温で加熱し急冷することで硬度を増加させます。
一方、焼戻しは焼入れ後に再加熱し、靭性を高めるプロセスです。
焼なましは、金属をゆっくりと冷却し、加工性を向上させます。
これらの技術は、製品の用途や必要な特性に応じて使い分けられます。
それぞれの特徴は、後ほど詳しく解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
熱処理の目的
熱処理の目的は、金属の特性を改善し、使用用途に応じた性能を得ることです。
具体的には、以下の目的があります。
- 強度の向上
- 耐摩耗性の改善
- 加工性の向上
このように、熱処理は製品の性能を最大限に引き出すために欠かせない工程です。
例えば、強度の向上は、機械部品の耐久性を高めるために重要で、耐摩耗性の改善は、長期間使用する部品において摩耗を防ぐために必要です。
また、加工性の向上は、製造工程を効率化し、コストを削減する効果があります。
これらの目的を達成するために、適切な熱処理方法を選択し、実施することが求められます。
熱処理に適した材料
熱処理に適した材料は、その性質により異なり、一般的に以下の材料が適しています。
- 炭素鋼
- 合金鋼
- ステンレス鋼
これらの材料は、熱処理によって特性を大幅に向上させることができます。
炭素鋼は、炭素含有量が高く、焼入れによって硬度が増加し、合金鋼は、添加元素によって特性が強化され、熱処理による調整がしやすいです。
また、ステンレス鋼は、耐食性を持ちながら、焼入れなどで硬度を高めることができます。
材料の選定は、製品の用途や求められる特性に応じて行うことが重要です。
鋼材の代表的な熱処理方法

鋼材の代表的な熱処理方法には、以下の種類があります。
- 焼入れ
- 焼戻し
- 焼なまし
- 焼ならし
それぞれについて解説します。
焼入れ
焼入れは、鋼材を高温に加熱した後、急速に冷却することで硬化させる熱処理方法です。
焼入れによって強度や硬度の向上が可能であり、耐疲労性や耐食性を高めることができます。
これにより、工具や機械部品の耐久性を向上させることができます。
また、焼入れによって鋼材は非常に硬くなりますが、同時に脆さが増すため、後に焼戻しが必要です。
焼戻し
焼戻しは、焼入れによって硬くなった鋼材に粘りと靭性を加える熱処理です。
焼戻しでは、焼入れ後の鋼材を再加熱し、高温または低温で一定時間保持します。
このことで、焼入れによって生じた脆さを緩和し、耐破損性を向上させられます。
そのため、焼戻しはシャフトやボルトなどの部品製造において、材料の性能を最適化するために不可欠な工程です。
焼なまし
焼なましは、鋼材を柔らかくすることで加工性を高める熱処理法です。
鋼材を加熱・内部応力を除去し、組織を均質化することで、鋼材の特性が安定し、加工中のひずみが減少します。
そのため、焼なましは特に切削加工や塑性加工が必要な製品の製造において、重要な工程とされています。
焼ならし

焼ならしは、鋼材の組織を均一化し、機械的性質を改善する熱処理法です。
鋼材を一定温度に加熱して空冷し、組織を均質化することで残留応力を除去します。
焼ならしは、特に大型部品や構造材の製造において、材料の均一性を確保するために重要な工程です。
焼入れの目的と種類
ここでは、焼入れの目的と種類について解説します。
焼入れの目的
焼入れの目的は、鋼材の強度や硬度を向上させることにあります。
具体的な目的として以下が挙げられます。
- 強度の向上
- 耐摩耗性の向上
- ヒビ割れの防止
焼入れは、鋼材を高温に加熱した後、急冷することで組織をマルテンサイトに変化させる技術です。
このマルテンサイト組織は非常に硬く、製品の耐久性を劇的に高めます。
例えば、切削工具やベアリング、歯車などの部品は、焼入れによって大きな負荷に耐えることができるようになります。
一方で、焼入れだけでは脆くなることもあるため、焼戻しと組み合わせて行うことが一般的です。
焼入れの種類
焼入れにはさまざまな種類が存在し、用途や目的に応じて使い分けられます。
代表的な焼入れの種類を以下に示します。
種類 | 特徴 |
真空焼入れ | 真空状態の炉で熱を加えた後に冷却する方法。真空にすることで、表面の酸化を防ぎ、製品に光沢を出す。硬さにムラが生じにくくなり、鋼の品質が安定する。 |
浸炭焼入れ | 低炭素鋼を加工するための処理方法。表面に炭素を浸透させ、高炭素化させたうえで焼入れや焼戻しを行う。このことで表面が硬くなり、耐摩耗性が向上する。 |
高周波焼入れ | 高周波誘導電流を使って鋼の表面に熱を加える方法。金属に銅線のコイルを巻きつけ、鋼に熱を与えることで、ピンポイントで加熱することが可能。二酸化炭素の排出量も抑えられるのも特徴の一つ。 |
窒化焼入れ | 鋼の表面の強度を高めるために熱を加える方法。炉をガスで満たして加工することで、窒素が染み込んでいる部分の強度が向上する。製品も変形しにくくなり、精密部品の強度を上げたい場合に的している。 |
焼戻しの目的と種類

次に、焼戻しの目的と種類を解説します。
焼戻しの目的
焼戻しの目的は、焼入れによって得られた鋼材の硬さを適度に調整し、靭性を向上させることにあり、以下の効果があります。
- 靭性の向上
- 内部応力の除去
- 加工性の改善
焼戻しをすることで、鋼材の耐久性が向上し、破損のリスクを低減できます。
焼入れ後の鋼材は非常に硬くなるため、もろさが生じますが、焼戻しを通じて靭性を付与し、材料の使用に適した状態にするのです。
なお、焼戻しは、製品の加工中に発生する内部応力を和らげる効果もあります。
これにより、製品の寿命が延び、信頼性が高まります。
焼戻しの種類
焼戻しには、高温焼戻しと低温焼戻しの2種類があります。
高温焼戻しは、450℃から650℃の範囲でおこない、強度と靭性のバランスをとる目的で用いられます。
一方、低温焼戻しは、100℃から200℃の範囲で行うのが特徴です。
なお、高温焼戻しは、シャフトやボルトなどの部品の製造に適しており、強度と靭性が求められる場面で使用されます。
低温焼戻しは、焼入れによって生じた内部応力を除去し、製品の精度を保つために利用されます。
このように、それぞれ特徴が異なるため、製造工程や用途に応じて適切な焼戻しを選択することが重要です。
焼なましの目的と種類

続いて、焼なましの目的と種類について解説します。
焼なましの目的
焼なましは鋼材を適切に柔らかくし、加工性を向上させることを目的としており、以下のような効果があります。
- 内部応力の低減
- 組織の均質化
- 加工硬化の解消
鋼材を高温に加熱し、その後ゆっくりと冷却することで、これらの効果が得られます。
焼なましは、特に加工が難しい鋼材に対して重要な工程であり、結果として製品の性能や寿命を高めることに寄与します。
焼なましの種類
焼なましにはいくつかの種類があり、それぞれ異なる目的や手法があります。
主要な焼なましの種類は、以下の通りです。
種類 | 特徴 |
完全焼なまし | 鋼をやわらかくすることを目的とした加工方法。最も一般的な加工方法であり、鉄鋼材料全般に向いている。結晶粒が粗大化している場合も、標準組織に戻すことが可能。 |
球状化焼なまし | 炭化物の球状化により鋼の加工性を高める処理方法。特に機械構造用鋼や工具鋼の焼なましに向いている。完全焼なましよりも鋼をやわらかくできるのが特徴。 |
低温焼なまし | 比較的に簡易的な加工方法。完全焼なましの代替として行われることが多く、さまざまな鉄鋼材料・非鉄鋼材料の加工に対応が可能。 |
焼ならしの目的と種類

最後に、焼ならしの目的と種類を解説します。
焼ならしの目的
焼ならしの目的は、金属内部の組織を均一化し、機械的性質を向上させることです。
以下のポイントで金属の性能を改善します。
- 組織の均一化
- 内部応力の除去
- 機械的性質の向上
焼ならしを施すと金属内部の組織がより均一になり、内部応力が解消されます。
これにより、金属の機械的性質が向上し、加工時のひずみや変形を減少させることが可能です。
また、内部応力の除去により、金属の耐久性が向上し、長期間の使用に耐えることが可能になります。
焼ならしは、これらの効果により、金属製品の信頼性を高めるために広く利用されています。
焼ならしの種類
焼ならしにはさまざまな種類があり、それぞれの目的に応じて使い分けられます。
主な焼ならしの種類を以下に示します。
種類 | 特徴 |
普通焼ならし | 大気中または噴霧で冷却する処理方法。主に、小型の部品は大気中で冷却し、大型の部品は噴霧で冷却する。 |
二段焼ならし | 一定の温度になるまで冷やしたうえで、さらに急速に冷却する方法。二段焼ならしで冷ますことで、内部に生じる割れを防止する。 |
二重焼ならし | 1回目の焼ならしで十分な効果を出せなかった場合に実施する方法。1回目とは異なる温度で行うのが特徴。 |
熱処理した鋼材の活用事例

最後に、熱処理した鋼材の活用事例を紹介します。
自動車部品
自動車部品における熱処理鋼材の利用は多岐にわたります。
エンジンやトランスミッションの部品など、耐久性と耐摩耗性が求められる部位に使用されており、以下の理由から、熱処理が施された鋼材が選ばれます。
- 強度の向上
- 耐摩耗性の向上
- 寿命の延長
熱処理した鋼材を活用することで、部品の信頼性が向上し、メンテナンスの頻度が減少。
結果として、コスト削減や製品の信頼性向上につながります。
建築構造材
建築構造材における熱処理鋼材の活用は、耐震性や耐久性を重視した建築物において重要です。
特に高層ビルや橋梁などにおいて、以下の特性が求められます。
- 耐震性の向上
- 長期耐久性の確保
- 加工性の向上
すると、建物全体の安全性が高まり、長期間にわたって安定した性能を維持できます。
これにより、メンテナンスコストの削減も期待できます。
航空機部品
航空機部品における熱処理鋼材の利用は、軽量化と強度の両立が求められる場面で活用されています。
以下の特徴により、航空機の安全性と性能向上を支えています。
- 軽量化と強度の両立
- 耐衝撃性の向上
- 高温環境への適応
すると、航空機の燃費効率が向上し、運用コストの削減につながります。
さらに、安全性が高まり、乗客の安心感を高めます。
まとめ
本記事では、熱処理の基礎知識から代表的な方法について解説しました。
熱処理は鋼材の特性を向上させるために不可欠なプロセスです。
製造業においては、製品の信頼性と顧客満足度を確保するために重要な役割を果たすため、それぞれの熱処理方法の特徴を漏れなく把握しておきましょう。
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